「先行パーティーはどの辺ですかね」

「ニードルは越えているだろうな」

この先しばらくは緩やかな上りが続くが、一,九九〇メートルピーク、二,一二一メートルピークを越えると一気に岩稜帯となり本格的な登攀となる。ニードルとは、その岩稜帯に聳える岩塔で、小窓尾根の最初の難所である。

「さて、行くか」と、身体が完全に冷え切る前に鬼島が腰を上げた。

傾斜は徐々に増していった。自分の視線の高さが北方稜線にだんだん近づいていくので、いよいよ高度を稼いだことが感じられるようになった。先行パーティーとの差は確実に詰まっているようで、やがてそのトレースも、掘り返されたばかりのやわらかい雪になっていった。

一,九九〇メートルピーク、二,一二一メートルピークと順調に高度を重ねると、それまで一面雪で覆われていた白い稜線が痩せこけ、岩が目立つようになった。そして一気に視界が開け、目の前にニードルが怪しげに姿を現した。

そのせり立った岩塔を前に、川田はどこを越えられるのかと目を見張った。先行パーティーのトレースは岩塔基部に向かって延びていた。鬼島はトレースに従って無言でニードルへ進んでいった。一旦、コル(山稜上のくぼんだ地形)に下り、ニードルに向かって上り返す。ニードルへの最後の上りは、ワカンでは閉口するくらいに岩が露出し、この先の悪場を予想させた。

ニードルの基部にたどり着くと、先行パーティーがロープやハーネス(腰に着用してロープを結び、安全確保するための道具)を出して登攀の準備をしていた。

ニードルはクライミングピッチとなるため、ロープでの確保が必要となる。ロープを繋ぐためにハーネスを腰に装着していた先行者の一人がこちらに気がつき「どうも、こんにちは」と挨拶をしてきた。

次回更新は1月12日(月)、8時の予定です。

 

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「は?」――絶壁を直前に、先行パーティーの若い方が引き返してきた。「あの…」と声をかけて来て…

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