アルキアスが笑い声をあげるや、扉が開き、人影が見えた。
(いよいよか)
フィリダスは心ひそかに胸を弾ませたが、
「アテネからの急使です」
入ってきた男はそう言い、長椅子の上にだらりと横臥しているアルキアスの前に足早に歩み寄るや、一通の手紙を差し出した。
「なにい?」
アルキアスは酔眼朦朧とした目で相手をみ、まわらぬ舌で言った。
(まずい。もしや、同志たちの脱出を知らせてきたのではないか?)
フィリダスは、たちまち顔をしかめた。
アルキアスは、渡された書簡を手にとってしげしげ眺め回すと、使者をねめつけ、
「こんな夜更けに、アテネから、いったいなんの用だ?」
「大事な用件ゆえ、すぐお読みになるようにとの伝言です」
アテネの使者が手紙の開封を催促する。フィリダスの直感は的中した。
が、幸いなことに、フィリダスの策略で、すでにしたたかに飲まされていたアルキアスは酩酊(めいてい)しており、
「もうすぐ美人のヘタイラたちもやってくる。野暮な手紙なんぞ、読むのは明日になってからでよかろうて」
手紙をろくすっぽ見ようともせず、面倒くさそうに枕の下に押し込んでしまった。
フィリダスはほっと安堵の息をもらし、生の葡萄酒をアルキアスの杯(さかずき)になみなみ注ぐと、「ささ、将軍、もう一杯。お待ちかねの女たちも、まもなく姿を見せましょうから」などと甘い言葉を吐いては彼らの欲情を掻き立てる。
アルキアスは卑猥(ひわい)に笑い、さかんに手を打った。フィリダスが時間稼ぎに腐心していると、再度、扉が開き、綺麗(きれい)どころがようやく登場した。