【前回の記事を読む】女装し、樅や松の葉で顔を隠してヘタイラ(芸妓(げいぎ))に化ける…自由を取り戻すため酒宴での誅殺計画が進むが…
第一章 テーバイの解放
「今宵の宴にはスパルタの将軍たちをお呼びいたしてはおりませぬ」
フィリダスが面目なげに応じると、
「なんだ、呼んでおらぬのか。スパルタあっての我々なんだぞ。将軍たちをお招きせぬとは、気の利かぬ男だな」
アルキアスが立腹すると、そばからフィリッポスが、
「これ、アルキアスよ。フィリダスを責めてはならぬ。スパルタの将軍連は質実で、酒を好まれぬ。酒宴の席にお招きしては、かえって失礼にあたると、フィリダスなりに気をまわしたのであろう」
「そうじゃな。スパルタの将軍たちは、任務一途の武人ぞろい。まったく、頭が下がるわい。スパルタ軍がカドメイアで睨みを利かせている限り、テーバイの安泰は保証される。ありがたいことだ。じゃが、たまには息ぬきも必要だ。次回の宴会には、スパルタの総監たちもご招待し、盛大にもてなしてさしあげようではないか」
「さようでございますな」
フィリダスも、相槌を打って茶を濁す。そのあと急に声音を改め、
「アルキアスさま。じつは美人のヘタイラを呼び寄せてございます」
「なに、ヘタイラじゃと?」
アルキアスは、とたんに貪婪(どんらん)な目を輝かせ、
「そうか。それで、おぬし、さっきから、そわそわしておったのだな。なら、はやくそう申せ。気が利くではないか。ハッハッハッ!」