【前回の記事を読む】ヘラクレス像に誓う十二人の決死行――雪夜に潜入し裏切り者を討ち故郷奪還に挑む

第一章 テーバイの解放

「そうか。では、我々は二手(ふたて)に分かれて行動しよう。一隊が宴席へ向かってアルキアスら二名をしとめ、あとの一隊がレオンティアデスとヒュパテスを襲う」

「では、宴席には、このカロンが赴こう」

カロンが名のりを上げると、ペロピダスも遅れるまじと、

「ならば、わたしが、レオンティアデスとヒュパテスのもとへ行く。スパルタの将軍フォイビダスを嗾(けしか)けてテーバイを占領させたのは、レオンティアデスだからな。やつは、アテネに刺客を送り、我々の同志アンドロクレイダスも暗殺した。だからこそ、この手でレオンティアデスの首級をあげ、殺された仲間の無念を晴らしたい」

「では、レオンティアデスとヒュパテスの誅殺(ちゅうさつ)は、ペロピダスに任せよう」

四十八名の同志は二隊に分かれ、カロンとメロンが宴席にいるアルキアスとフィリッポスのもとへ、ペロピダスがレオンティアデスとヒュパテスのもとへ行くこととなる。襲撃の手順が決まると、同志たちは武具に身を固めはじめた。

「酒宴にもぐり込むにはヘタイラ(芸妓(げいぎ))に化けるのがいちばんだ」

宴席に討ち入ることになったカロンとメロンは甲冑(かっちゅう)の上から女ものの衣裳を着け、樅(もみ)や松の葉っぱをたくさん付けた冠をかぶる。女装し、樅や松の葉で顔を隠して、アルキアスたちに気取られぬよう、工夫を凝らす。

ペロピダスも手早く鎧(よろい)を身に纏(まと)う。やや緊張した面持ち(おもも)ちで剣を握りしめていると、背後からカロンが、

「どうだ、ペロピダス。おれは、美人のヘタイラに見えるか?」

と、おどけた声でたずねてきた。

「ああ。別嬪(べっぴん)だ」

笑ってこたえ返すと、ペロピダスも緊張が解けてゆく。つと、カロンに近寄ると、

「カロンよ。一つ、たずねてもいいか?」

ペロピダスは、そっと小声で言った。

「彼は、どうしている?」

「彼」という、ひとことだけで、ペロピダスが誰のことを問うているのか、すぐに察したカロンは、微笑で応じてくれた。

「エパミノンダスのことならば、心配ない。もともと活動的な性質(たち)ではなかったし、野心も欲もない男だから、やつらも危険視せず、手を出しちゃいない。いまでも、自宅で子供相手に細々と教師をやっているよ」

「そうか……。いや、無事ならそれでいいんだ」