吹奏楽部の同級生で飾り付けの電話をくれた、ファゴット奏者の綾奈小路姫子でした。4月生まれの姫子と翌年の3月生まれの淑子では、1年の差があり背が高く丸顔で同じようなケースを、あでやかな振袖の背中に背負っているところは、遠目には淑子と見間違うほどでした。
その姿を見つけた八重子が挨拶しました。「姫子さん。お忙しいなか結婚式に来てくれてありがとう」
「いえー」姫子は軽く挨拶を返すが、笑顔とはいえない不思議な表情でした。
実は、姫子も1年前に団圃団吾氏とお見合いをしていたのです。
八重子が招かれざる人を発見しました。
昨日会った夕反田勇がデッキにいますが招待客には入っていません。
出発時刻を知らせるベルがけたたましくホームに鳴り響き、花嫁列車の阿武隈急行ことぶき号が出発しました。近くの高校の吹奏楽部が古関裕而先生作曲の『栄冠は君に輝く』を演奏して見送ってくれます。
八重子や丈太郎は見送り客が見えなくなるまで手を振りました。落ち着いて席に着いた八重子は何かが欠けていると思いました。
「……花嫁が、花嫁の淑子が乗っていない!」
第2話 花嫁を乗せずに花嫁列車が出発?
八重子が声をあげると車内は静まり返りました。乗客は車両中央の座席の上に出ているファゴットケースで、花嫁だと思い一斉に見ました。
そこに座っていたのは友達の姫子でした。
周囲の騒ぎを意に介さず窓の外を眺めていました。
しかし、心の中ではいつでも淑子の代わりに花嫁になるわよ!と思っていたのです。
八重子は万城目(まんじょうめ) 洋二を探しました。花嫁列車に乗っている洋二は行方不明の父親の友人で、淑子の結婚式に招待されていました。
「淑子が、花嫁の淑子が乗っていないんです。駅まで一緒に来ていますから待合室にいるはずです。運転手さんにバックするよう、洋二さんから言っていただけませんか」洋二は驚きました。
「ええっ。バックって、車じゃないんだから。どうすれば……」
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