【前回の記事を読む】花婿は31歳、身長165cm、体重88kg。高コレステロール、高尿酸、高血圧、動脈硬化症、糖尿病、痛風もあり――
第1話 崖の上で啼(な)く猫とゲームの始まり
翌日、淑子の家で
「花嫁列車が見えてきたよ」有名な花見山の満開の花々を描いた車両が停車していました。
八重子も声が大きくなりました。
「あららー、まあー何と華やかなことかー」
阿武隈急行ことぶき号は花嫁のための特別列車です。みんなが花嫁列車と呼ぶ臨時列車に恩師や親族、花嫁の友人がぞろりぞろりと乗り込み始めて、ホームもにぎやかです。
列車の窓には色とりどりの造花が飾られています。車内は造花の他に季節の生花が飾られて、いい香りがお祝い気分を盛り上げてくれます。
丈太郎は飾り付けが見事だと聞き、乗りたくてソワソワしていましたが、運悪く駅長に呼び止められました。
「念願の鉄道が通ったときに皇太子妃の嫁入りがありましてな。市長が花嫁列車を思いついて、息子のお嫁様を第1号に乗せました」
「鉄道会社で飾り付けをするの?」
「そうそう、いい質問ですぞ、お坊ちゃま。花嫁列車の日取りが決まりますと、親族、兄弟姉妹はもちろんのこと、学校の同級生、部活の仲間やPTA、会社の仲間が色紙を折って花をこさえるのです。
珊瑚(さんご)色や撫子(なでしこ)色、菖蒲(しょうぶ)色に真朱(しんじゅ)色、菜の花色のダリアのような形の花が、列車の中に飾られるんです。
そうですね、3000個くらいを網棚や椅子の背もたれや運転席の周りまで、飾れるところには全て飾って祝います。座席や窓回りには小さな花瓶に季節の生花を飾りますから、車内がいい香りに包まれます。そして花嫁列車が終点に到着したら花は誰でも持っていけます。ブーケトスのようですな」
丈太郎は聞きたいことがありましたが、1つだけ聞きました。
「ここからは丸森駅が終点になっちゃうの?」
「いえいえ、お坊ちゃま。そんなもったいない。これだけ飾り付けた臨時列車ですから、日中の1時間間隔のダイヤに上手く組み入れまして、複線になっている駅を中心に停車時間を多めにして、周辺の学校などの協力で音楽によるお祝いをするんです。
費用は出せませんがね。練習の場所として無償でホームを貸し出すんです。宮城県側の終点で東北本線と接続する槻木(つきのき)駅まで行きましてな、折り返し戻って丸森駅で終点ですよ」
「よかった。長く乗れるし沿線のみんなにも手を振れるね」
「そうなんです、お坊ちゃま」にぎやかさは頂点に達して駅長も自慢げにあごひげをさすりました。
出発5分前になりましたが列車内はにぎやかでした。
乗車した招待客の中に振袖姿の女性がもう1人いました。