夏の終わり、2学期が始まる、土曜日は小学校は半日で終わる。
ある日学校帰りの途中でひろしは駄菓子屋へ寄った。
まだまだ暑い日、ひろしはかき氷せんじが好きだった。
「おばさん! せんじ一つ!」と言って、店の前の椅子で氷を食べ始めていると「君は何年生?」シスターボーイが声をかけてきた。
隣に座って「せんじはイチゴよりいいね。あのイチゴの赤はなんだかよく見ると色が強すぎるよね」
話しかけてきた青年は隣の椅子に腰を下ろした。その近さにひろしはドギマギした。
それから、取り留めのない話をしながら氷を食べ終えて、ひろしの氷代もはらってくれた。店の隣の家の庭に、垣根越しに見えるひまわりの花が枯れかけていた。
家に帰って夕食を食べた後まで、昼間の青年の話が気になっていた。
「算数を勉強するといいよ、中学からは数学だけどね、数学が面白いなって思うまで勉強するといいのよ」が記憶に残った。
もう一つ「安らかに死ぬには冬、雪山に行って深い深い雪に埋もれて眠るといいと思うな」。どうしてそんな話をしたのだろうとひろしは気になっていた。その前の年、学校の一年上の小学生が集団登校の途中、トラックの交通事故に遭い亡くなった話を青年は聞いていたのだろうか……。
その後、何年か経った後、その小学校の同窓会であのシスターボーイのことが話題になったが、どこか遠い雪山で亡くなったと話す友人がいた。
氷代を払ってくれてから10年後のことだった。
その青年は、隣り町の裕福な家庭の一人っ子で、いつもは東京に住んでいて、音楽家だったそうだ。
主にオーストリアの交響楽団の団員をしていたそうだが、そのためか、ほとんど隣り町の実家には居なかったそうだ。亡くなる一月程前ぐらいに帰ってきて、それから行方不明になったと聞く。
そして、もう今は亡くなったらしいとその友人は話してくれた。
白い雪原を歩きながら、何を思っていたのだろうか……孤独な旅立ちであることも忘れて深い雪の中を歩いて、雪の香を感じていただろうか…… それとも誰か待っている人がいたのだろうか……。
春になって雪解けのあと見つかったそうで、一口齧ったりんごが横に転がっていたそうだ。
ひろしはこの話を聞いて、淋しい孤独な人生だったのだろうか?と思いつつあの優しく、白い顔を思い出していた。
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