マーガレットお婆さん
朝起きる前、わたしの身に何が起きているのかわからず、その答を出そうとして殺虫剤を噴きつけられた虫のようにもがいていた。
夢の中、わたしは沈没し、墜落し、衝突し、何度も死んだのだった。
うっすら覚えていることは、不慮の事故を繰り返し死んだということ。残りはすぐに忘却の壺に吸い込まれていった。
わたしの体は若かった。体中から自信が溢れ漲(みなぎ)っていた。二十代後半で結婚し、結婚生活が想像していたものとはまるで違うことがわかった。男は実力がないのに権威主義を生活のすみずみまで押し通そうとした。破綻するのは目に見えていた。
わたしは幻滅した。耐えられなくなった。そしてわたしから離婚を切り出した。
条件なし。離婚したい。それだけ。なぜ背伸びして権威を振りかざしたがるのか。しかもどうでもいい細かいことにうるさい。そこが感覚的についていけなかった。
自然体でいいじゃないか。家事はどちらかが空いている時間にやればいい。完璧にできなくても全然かまわない。二人とも仕事で忙しい。
男は「そういうのが厭なんだ」と幼稚園児が駄々を捏ねる時のように、呻き声と涙声が半分ずつ混ざったような声で言った。
「だったら自分でやれよ」と突き放すように言い返したら、一瞬暴力的な眼でわたしを睨み、うなだれてしばらく黙り、弱い犬が強い犬に吠えるように言った。
「分担は分担だ。自分のやるべきことはきちんとやってくれと言っているんだ」と。
その後、脅し文句のつもりなのか、低い声でむにゃむにゃと呪文を唱え続けた。
言い合いは時間の無駄だ。わたしはさっさとアパートを見つけ、引っ越し業者に依頼して荷物を移動させた。休みの日に全部一人でやった。
離婚協議は専門の有能な弁護士に任せっきりだったが、弁護士どうしの話し合いでケリはついた。離婚成立。費用はそれなりに要したが、思いのほか早く終わった。