「何人ぐらいに聞いた?」

「え? 何がですか」沖田はきょとんとした顔で中岡を見た。

「聞き込みした数」

「ああ」沖田は顎に手を当てた。「全部合わせれば、三百件近くは聞いてるんじゃないですかね」

「でも、事件解決に繋がりそうなのは一つもなかったよな」

「そうですね」沖田は聞き込みのメモが書き込まれている手帳を再び開いた。「中岡さんはどっちだと思われます?」

「どっちって、何のことだ?」

「被害者の加藤瞭さんはどこか別の場所で殺害されてあの場所に投棄されたのか、それとも、現場付近で殺害されてあの場所に投棄されたのかってことです」

「ああ、そのことか」中岡は冷めたホットコーヒーの残りを一気に飲み干した。このことは、事件発生当時から捜査員たちの間で議論になっていた。「お前はどっちだと思う?」

「僕はやっぱり、どこか別の場所で殺害されて、あの場所に投棄されたんだと思います」

「俺もそう思う」中岡は頷いて、彼自身もメモが雑多に書き込まれた手帳を開いた。

「死亡推定時刻は前日の正午から深夜零時ってことだ。となると、どこか別の場所で殺害されてあの場所に遺体が運ばれた日時というのは、二月十一日正午過ぎから二月十二日の遺体が発見されるまでの時間、つまり午後三時までということになる。でも現実的に考えれば、二月十一日正午から午後八時ぐらいまでの時間帯と、二月十二日午前五時以降の時間帯はありえないだろうな」

沖田は頷きながら中岡の話を聞いていた。この見解は特別捜査本部の約半数の意見でもある。殺害された加藤瞭は、身長は一八〇センチで体重は七八キロ、体格はよく筋肉質だった。

現場近くの箕面駅までは車で遺体を運ぶとしても、山道に車を乗り入れることはできず、死体遺棄現場までは徒歩で運ぶしかない。新緑シーズンでも紅葉シーズンでもなく、山の中は冷えているとはいっても、地元住民が山道を散歩することは珍しくない。

彼らが歩いているような時間帯にこんな男の遺体を運ぶのは、たとえ遺体をそれと思われないように見せかけたとしても大きな荷物であることに変わりはないので、目立ってしまう。つまり、何らかの目撃証言が出てくるはずである。

しかし、大がかりな聞き込み捜査をしたにもかかわらず、そんな証言は一件たりとも得られなかった。そうであるならば、誰かが山道を通る可能性が限りなくゼロになる時間帯に犯人は遺体を山中に運び込んだと考えるしかないのである。

 

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