8 My Simple Heart–Carol Douglas
ダーティ・デライトで仕事を終え、彼がMyPointsに歩いて戻って来たのは、10時半ぐらいだった。
「お帰りなさい」
山崎が、言った。MyPointsのDJブースには、山崎と見習いDJの理恵子が入っている。
「連絡無かった?」山崎に訊くと
「まだみたいです」彼は、そう答えた。
「そっか、じゃぁ先に集金してくるわ。さっきと同じく、連絡はラズィールか、NULLSにまわすようにして。俺は、どっちかに居るから。連絡が無ければ、1時間ぐらいで戻ってくるからさ」翔一が言うと
「わかりました」と、山崎は答えた。
今夜は平日だけどこの街は、いつもの通り。
歩道には、人があふれてる。
最近ではこの日本の経済が『マジっすか?』というくらいに、馬鹿馬鹿しいほどの、膨張を続けているらしい。
土地の値段は、非常識な高騰を続けている。
今まで過ごしてきたこの社会には、決して存在していなかったもの。
新しくて、しかもとても胡散臭いビジネスが、この国のあっちこっちで正確だったはずの歯車を、外しまくっているらしい。
豊かすぎる。そう評価され始めたこの環境は、人の理解の及ばない角度から広がり始めてしまった歪みという闇に飲み込まれ翻弄され始めたように思える。
いつものようにみんなは、『それ』に気づかない振りをしているらしいけど、そのうち、手に負えないところまで行ってしまいそう。
そんな現在に対して、誰が使い始めたのか知らないけれど、『バブル』という形容詞が、この時代に与えられていた。