中でも傑作なのが、北山のズボンだ。身長が百八十センチ以上もあるのに、ウエストが七十センチそこそこの彼のズボンは、婆さんの下げている信玄袋の口みたいにベルトで皺を刻んでおり、彼が歩くとズボンの裾はパタパタと音を立てる。
そして彼は左手をポケットに突っ込み、やや左肩を下げ右肩を前後に揺すって歩く。
その左手は、授業中でさえもポケットの中にある。ずっと以前にその癖に気づいた恭平は、何気なくその理由を訊いてみた。すると彼はニッと笑って左手で恭平の腕を掴み、左ポケットに差し込んだ。
驚いたことに彼のズボンの左ポケットには、穴はあるが袋がない。なんと北山は、筒抜けのポケットに手を差し込んでは四六時中、北山自身を指先で玩んでいるのだった。
さらに念の入ったことに、北山自身のために良くないと決してブリーフは穿かず、大き目のトランクスを愛用していると言う。その理由は、「性豪となるための弛まざる努力!」なんだそうである。こうして日夜鍛えておけば、接して漏らすことがないと言う。
宮島でも有数の観光旅館の長男の彼は、中学時代にすでに女性を知っていたと豪語するだけに、その言葉には説得力があった。
北山の話はいつもこんな調子で、一度だけ真面目に勉強の仕方を訊ねたことがある。真顔で答えてくれた彼の教えは、
「勉強を終えた直後に、その内容を頭の中で復唱しながら、マスターベーションに励め! そうすれば記憶は消えることがなく、気を遣っての自慰は果てることを知らない! これぞまさに一挙両得と言う!」
素直な恭平は早速に真似してみたが、どうも体質的と気質的に合わなかったみたいで、
『二兎を追う者は一兎をも得ず』と、散々な結果だった。
〈優劣〉〈軟硬〉見事に対照的な北山と恭平は、それでも妙にウマが合った。
試合は、道修館のキック・オフで始まった。
恭平たちは終始押されながらもよく守り、前半は〇対〇のまま終了した。
恭平のプレーはすこぶる好調で、この試合だけを見れば、両チームのメンバーの中でも一・二を争う出来だろう。相手のパス・コースは余すところ無く読み切り、繰り出すパスは的確だった。
(このゲームこそ、大学サッカー関係者に観て欲しかった)またぞろ邪念が頭をもたげてくる。
それにしても道修館の中盤をリードする財津の動きが輪をかけて際立っている。恭平たちが前半守勢に立たされたのは、財津の大車輪の働きのせいだった。
(財津の動きを何とか止めなくては……)
ハーフタイム。恭平はマネージャーの差し出すレモンを齧りながら佳緒里を探し、目が合った瞬間、佳緒里は口に手を当て何かを叫んだが、全校生徒の歌う応援歌に掻き消され、その声は届かなかった。
急激に汗が引いたせいか、寒気を覚えた恭平は頭の奥に痛みのようなものを感じ、その痛みを振り払おうと短いダッシュを二本、三本と繰り返した。
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