【前回の記事を読む】勝つ理由なんて、もう忘れた。彼女に見てほしい、グラウンドに立った俺はヒーローのふりをした。
Chapter2 HERO
キャプテンの高宮が監督に背を向け、恭平と大谷の肩を抱いて囁く。
「なあ、大谷、恭平。今日だけは絶対に勝とうの。全国大会に出とけば、セレクションでも有利になって大学にも入り易うなる。当然お前らも考えとるじゃろうが、ホンマ、今日の試合は大切じゃ。大学入試受けるつもりでやろうで!」
「あっ、あぁ……」
大谷と恭平は曖昧に、中途半端に頷いた。こういうことって、自分の頭の中で考える分には平気だけど、口に出してしまうと何故だか気恥ずかしいものだ。それにしても高宮らしい率直な意見ではある。
恭平はまたも下唇を噛み、眉間に皺をよせ、細めた目で佳緒里を凝視し、スタンドを埋めた全校生徒から注がれているであろう視線を全身に意識しながら、佳緒里の前まで歩いて行った。
「佳緒里、絶対に勝つけえの! よう見とってくれよ」
佳緒里は黙って頷いただけだったが、いつも佳緒里と一緒にいる額が広くて髪の柔らかそうな女の子(確か古田という名前だった……)が、真っ白い歯を見せて声をかけてきた。
「本川さん、頑張ってくださいね」
「おぉ、おまえも見とってくれぇの」
ついでのように答えてから、一年以上顔を合わせていながら、言葉を交わしたのは初めてじゃないかな……と気づいた。
「こらっ、恭平! おまえの相手は道修館じゃ! デートの約束は、勝ってからにしろ!」グラウンドに戻ろうとした恭平の背にヤジが飛び、大きな笑いの渦が起こった。
(くそっ、北山の野郎だ……)
案の定、振り返ると佳緒里のすぐ後方の笑いの中心で、北山が笑っている。
極度に痩せて背の高い北山は、いつも成績は学年でトップを走っており、茫洋とした性格は独特の風格を漂わせ、クラスの誰もが一目置く存在だった。