【前回記事を読む】「あなたはこの街の不良の元締めですね?」彼はたった一人、男に立ち向かった。「若者を悪の道に引きずりこまないでください」

三郎商店街のサブちゃん

「ママさん、水割りをいただけますか」サブちゃんがめずらしく酒を注文した。市瀬もつき合い、深夜まで杯を酌み交わした。日付を跨いだ頃、市瀬の携帯電話に連絡が入った。宏の父親である佐藤からだった。

「こんな遅くにどうしたい?」電話を受けた市瀬が言った。

「宏の野郎が、こんな夜中に大けがをして帰ってきたんだ。いまから病院に連れていくんだけど、何か知っているか?」

佐藤の言葉を聞き、市瀬は目の前が真っ暗になった。もしかすると、宍倉に焼きを入れられたのかもしれない。サブちゃんを促して大通りに飛び出し、タクシーを拾って病院へ向かった。病院に入ると、待合室の椅子に佐藤とその妻の恵子が腰掛けていた。

「様子はどうだい?」市瀬が聞くと、佐藤が苦笑いして話し始めた。

「さっきは電話で焦っちまって悪かった。宏が帰ってきたときは顔が血まみれだったから、命に関わるけがを負ったとばかり思ったんだが、大したことはねえらしい。いま、応急処置をしてもらっているんだ」

佐藤がそう言った矢先、診察室から松葉杖をついた宏が姿を現した。佐藤は「この野郎、親に心配かけやがって!」と大声を出し、恵子とともに宏の脇を支えた。

「サブちゃん、あんたの言ったとおりだったよ」待合室の椅子にゆっくりと座った宏は、自嘲するように笑った。

「いったい、何があったんだ?」市瀬が宏に尋ねた。

「宍倉さんたちに袋叩きにされたんだ。さっき、急に呼び出されてな。『お前には気合が足りねえ。もしこれからも仲間でいたいのなら、両親を殺すくらいの気合を見せろ。できるか?』って言われたんだ。もちろん、俺にそんなことはできねえ。『できません』と素直に答えたら、仲間たちから殴られ、蹴られ、この有様だよ。『二度と顔を出すな』って言われちまった」