退院後の鳥飼はエネルギーに満ち溢れオーラが出ている。これは亜矢だけが感じているのではなく、若い女性行員は皆噂をしている。
鳥飼が退院してから不可解なことが何件かあった。
一つ目は、鳥飼が亜矢のことを「アミ」と呼ぶようになったことだ。「アミ」は亜矢の魂の名前だと鳥飼は説明した。
二つ目は、鳥飼とヤクザとのつきあいだ。二人は川崎を避けて横浜で会うことが多い。食事の後ラブホテルに行くのだが、最近、ラブホテルに行く前に亜矢は福富町にあるクラブに何度か連れていかれた。
そこで鳥飼はいかにもヤクザ風の男と待ち合わせをしていて、奥にあるVIPルームに二人で消えていく。十五分ほどいなくなるのだが、その後、二人は何食わぬ顔で戻ってきて別々のテーブルで飲んでいる。
クラブに連れていかれて二度目の時、鳥飼がVIPルームに消えたのを見計らって、亜矢はテーブルについたホステスに聞いてみた。ヤクザ風の男は福富町を縄張りにしている木村組というヤクザの幹部だと、そのホステスは小さな声で教えてくれた。
ヤクザと何を話しているのか心配だったので、ラブホテルで亜矢は鳥飼にストレートに聞いてみたが、はっきりとは答えてくれず体で誤魔化されてしまった。
三つ目は、鳥飼の公用の携帯にメールも含めて連絡するなと言われたことだ。
そのためデートの待ち合わせの連絡は鳥飼の自宅のPCに入れるようになった。鳥飼は何を恐れているのか、亜矢には見当もつかない。退院後の鳥飼は背後に大きな闇を背負っているように感じている。
しかし、亜矢はそんな鳥飼が死ぬほど好きだ。何故か分からないが、今の鳥飼とならば落ちるところまで落ちてみようと、亜矢は覚悟を決めている。