あーあタバコ
暗がりの中でタバコの火だけが上下しています。
「さ、寒い。なんて事だ」震えながら二小内忠(にこうちただし)がつぶやいた。
「こんばんは、二小内さん。寒いですね。お宅も蛍族ですか」
「おや、こんばんは。田場(たば)さん、そうなんですよ。家内がうるさくってね。ゴホン。う、ゴホン。私は晩婚だったから子供がまだ小さいんですが、その子が肺ガンになったらどうするって。ゴホン。そう言われれば家族のいる所では吸えません」
「そうですか、お気の毒です。でもお互いこんな寒い中でタバコを吸わなければならないなんて嫌な世の中になったものです」
「値上がりはするし、私の小遣いもそう多くはないですからね。これからはあまり自由に吸えません」「お宅もですか。お察しします。うちの会社の健日(けんにち)日報の給料もたいしたことないのでタバコ代の値上がりはかなり懐に響きます。
それにしてもせっかく一服して気分転換し原稿書きしようと思っても、こんなに寒くては気分転換どころじゃないですよ。ハックション、風邪ひいたかな」
「ここでは吸うな、あそこはいかんと本当に吸える場所がなくなりました。自分の嗜好で吸っているのに他人がああだこうだ言うことはない。大きなお世話ですな」
「それが最近は受動喫煙が危ないらしいですね。自分で吸うよりも肺ガンの危険が多いそうですよ」
「そうですか。そんなに受動喫煙が心配なら自分で吸えばいいのに」