「風はどちらだ。こっちだ、ああ新しい風が吹いている。あっちだ。急ごう」
遠くに白い穴が開いています。
「ここも狭いな。でも風はここから吹いて来る。よし、ここへ入ってみよう。よっこらしょ。きついな、あーあもう少しやせていたら良かった。よいしょ、 き、きつい。あー、あ、でも向こうに明かりが見える。よし、もう少しだ」
「あれ、誰かが呼んでいる。誰だー? あ、ああの声は、寛だー」
路上で志望寛が原出太郎を介抱している。
「原出先輩、何とか頑張って……」
「こ、ここはどこだ?」
「先輩、よかった。意識が戻った」
「どうしたんだ。俺はいったい何をしているんだ」
「先輩と別れた後、ふと心配になり様子を見に戻ったんです。そうしたら手足をばたばたさせているだけで返事はないし、もう本当に心配しました」
「そうだ俺は一度死んだのだ。でもこうして戻って来れた。助かったのだ。あの禅師、日内変動禅師って言ったな。どこへ行ったのだろう。寛、そう言えばお前手に何を持っているのだ?」
「母親からもらったお守りです。先輩を介抱しているうちにちぎれて落ちたので手に持っていたのです。糖尿醍寺のお守りです」
「何? 糖尿醍寺……? あれ、禅師さんは糖尿醍寺の住職だと言っていなかったっけ?」
太郎の耳に日内変動禅師の声が聞こえて来ました。
「太郎よ、お前はタバコは吸わなかった。そのためにお前の身体の中で肺だけがまともだった。だからたった一つの出口になった。もし肺までやられていたらお前は文字通り地獄への道へと一直線だったところだ」
「日内様、ありがとうございます。変動禅師さま、助かりました」太郎は空に向かって拝みました。
「先輩、私は寛ですよ。日内ではありません」
「いやいやごめん。本当にサンキュウ、サンキュウ、志望君、どうも俺は糖尿病という病気を馬鹿にしていたようだ。これからは気を付けようと思う」
「そうですね。お互いに気を付けましょう。そうだ、これからは糖尿病教室に通いましょうか?」
「糖尿病教室か、それもいいな」