私たちの最後の恋がスタートした。メールで言ったように私は今が61年間の中で一番幸せを感じていた。これから先はバラ色ではないことは分かっている。先々の不安より現在(いま)この時間(とき)で止まってほしい。

その不安はすぐにやって来た。あれから、2日間メールが来ない。自分から何度もするとストーカーのように思われるから、現に私は彼のことをネットで調べたりしていたので自分ではストーカー的だと思っている。メールはしばらく我慢しようと思っていたら、早朝の通勤時間に着信があった。


<件名>おはよう

今日は出張です、日帰りね。

今死ねたら幸せって言うけど、死んだらどうなると思う?

今私が死んだら、ことりの周りを天使のように羽が生えて飛び回るのかな。

私は死んだら、「永眠」という言葉どおりだと思います。

行ってきま~す。


    

彼が言っている「終活」は「死」を意識しているのだろうか。死ぬような目に遭った話をしていたのを思い出した。まぁ、彼も盛りだくさんな人生だったと言っていたから、苦労もしたのだろう。

人間は60年も生きていると多くの人生経験を積む。私も嫌なことが少なからずあったけれど、今では苦労したとは思っていない。それらの経験があって今の私がある。「あっという間の人生だった」と言われることは多いが、私にとってはこの61年間は時間の流れがとても長く感じられる。それだけ変化に富んだ日々だったのかもしれない。


<件名>Re :おはようございます

朝早くからの出張お疲れ様です。

今日は朝一番にメールをいただいたので、嬉しくて業務がはかどっています。

死んだら、永遠の眠りではなさそうです。49日まではコッチの世界をうろうろします。

コッチの世界に未練がなくなったら、アッチの世界に行きますが、時々またコッチの世界を覗きにきたりします。死んでも結構忙しいようです。まぁ、誰も私の言うことなど信用しませんけど。

夕方から雨のようです。お気をつけてお帰りください。

お疲れが残りませんように。


 

 

「大人の恋愛ピックアップ記事」の次回更新は12月13日(土)、12時の予定です。

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バイクに乗るのも、二人で喋るのも初めてだった。「しっかり持たなあかんで」「うん…」「違う、もっと抱きつかんと落ちるで」

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一通のショートメール…45年前の初恋の人からだった。彼は私にとって初めての「男」で、そして、37年前に私を捨てた人だ

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三人で夕食のテーブルを囲んでいた。夫、妻、そして――。彼が彼女に「美味しいね」と言って、普段殺風景な屋敷に珍しく会話が…

内容紹介

“自由に趣味に生きてください”。その言葉に惹かれ、悠真と結婚した美代子。
傍から見ると束縛のない理想の生活を送っているように見える彼女だが、何か物足りない、満たされない日々。ある晩、悠真の部屋から家政婦・美月の声が聞こえ…