翌日、予定通りゲムシタビンの二回目の投与が行われた。副反応だけ見れば、この二回目の投与の後には特段厳しい状況は訪れなかった。そうしてみると、一番最初のプラチナ製剤のシスプラチンがきつかったのか。がん細胞をアタックする力が強い分、正常な細胞のダメージも大きくなるということか。

昼ごはんを作りながら、洗濯をしながら、廉は和枝の体に起こっていることを考え続けた。そして和枝の電話の声の調子を確かめながら一喜一憂していた。代行の先生の見立てによれば、肺の病巣は「少なくとも入院時より大きくなってはいない」そうだ。

和枝からメール。

「どこまで祈り続けることができるか─。そんな人生になるんだなぁ。その入り口に立ったんだなぁと思います。まだ甘いかもしれないけど、廉と遥のお蔭で、きっと祈り続けることができそうな気がするよ」

その夜、廉との口喧嘩がもとになり、大泣きした遥が和枝にまで電話でかみついた。

「最近テレビがつけっぱなしになっている」という些細なことから、今後留守番が多くなる遥を廉が注意した。

「こんなんじゃ勉強できないだろ」と。

和枝も電話で廉に加勢した。

遥は「ママはちっとも遥と話す時間を取ってくれないじゃない。テレビだって見てるわけじゃないよ。ただ寂しいから音を出してるんだ」と泣きじゃくった。

でも二分、三分と和枝と話すうち、あやされる子どものようにゆっくり笑顔が戻ってきて、冗談も出るようになる。ママと話し、携帯を耳に当てたまま、だんだん眠たそうになっていく遥。