肌を刺すような寒風の中での作業は熾烈を極め、目から涙が流れ落ちる。その季節に行われる麦の間の土塊を打つ作業は、農具で土塊を打ち砕いて行く大変な作業。農具を握るその手は凍傷となり、血がにじむ。その手で力いっぱい農具を振り下ろして、土くれを粉砕する。

農民達はこの作業を礫打(つぶてう)ちと呼んでいた。あかぎれやしもやけの手で農具を振り下ろすので、痛みは頭の芯まで響き、飛び上がるほどだった。何度か続けると、その衝撃で凍傷に罹った手に血がにじんでくる。

血を手拭いで拭きながら作業を続けるのだが、極寒の中での作業は他にも数えきれないほどあった。それに農作業の辛さは冬だけではない。

それに勝るとも劣らない作業の一つに、照りつける真夏の太陽の下で這いつくばって雑草を取る田の草取りがある。腰が痛むのは勿論だが、手足に蛭や虻、蚊などが容赦なく取り付き、血を吸いに来る。夏の農作業の中でも、最も辛い仕事の一つだ。

一郎は、一人前の農民でさえも大変な農作業を毎日のように命じられ、悪戦苦闘。いかに大きな体をしているとはいえ、15〜16歳の少年にとってはあまりにも過酷だった。

ましてや、まだ遊びたい年頃の少年。農民として必要な作業を嫌というほど教え込まれ、いつの間にか一人前の農民として鍛えられていった。農業とはなんと単純で重労働、それでいて報われることの少ない、割に合わない職業だと考えるようになっていた。

労多くして、報い少なしとはこの事だ。よし、それならば、いつの日か必ず魅力のある職業に変えてやる。それにはどうすればよいのか、あれこれと考えてみたが、これといった答えは浮かばない。

そこで一郎は家庭科の先生に相談してみた。先生は、この町の先進的な農家では若い後継者達がキュウリやトマトなど、野菜の促成栽培に取り組み、新しい時代に合った農業を目指していると教えてくれた。そして、

「谷川君も最新の農業技術を学び、新しい時代の農業経営を目指したらどうかね」と言ってくれた。そうか、自分が目指すべきは、新しい時代の農業経営だ。何とか目標が見えて来た。

 

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