【前回の記事を読む】「予想兵員数はせいぜい10〜15名程度。ただし全員、自衛隊の精鋭だ」…標的は、輸送中のトマホーク巡航ミサイル。

第一章 トマホーク強奪と裏切り

更ける夜、トマホーク移送

「あと1メートル……50センチ……よし、停止!」

無線越しの指示に従い、クレーンの動きが完全に止まる。数名の自衛隊員が駆け寄り、コンテナを手動で微調整しながら荷台の固定用ステーに装着する。

その瞬間、周囲にわずかなざわめきが起きた。安堵のざわめきだ。

「確認、トマホークの安全装置は正常作動中。搬送準備完了だ」

自衛隊の技術士官が静かに告げる。隣に立つアメリカ軍の兵士が短く頷き、艦長へと報告する。

「全員配置に戻れ。次の移送まで5分以内に完了させるぞ」

その言葉に応じて、米軍と自衛隊の隊員たちは再び持ち場に散り、次のコンテナの準備に取りかかる。一方で、トラックはエンジンをかけ、港の薄暗い通路に向かってゆっくりと動き出した。

東京湾岸の夜。濃い霧がビル群を覆い、光の粒が空気中で淡く滲む。24時30分、アメリカ軍基地のゲートがゆっくりと開き、護衛車両に挟まれた自衛隊の輸送トラックが静かに進み出た。トラックのエンジン音が低く響き、迷彩塗装が夜闇に溶け込むように見える。

その様子を見下ろす高層ビルの一室。暗視スコープを覗き込む男の手元に、小型無線機が置かれていた。「目標、移動開始」男が短く呟くと、無線から抑揚のない女性の声が返る。

「了解。監視を続行」

トラックが港湾エリアを抜けると、数台の一般車両が後続についた。護衛車両のドライバーはミラーで確認するが、特に不審な動きは見られない。深夜の高速道路は比較的交通量が少なく、追跡車両が紛れ込むには十分な条件だった。