【前回の記事を読む】剣術に縛られ、父に怯え、それでも未来を夢見た──戦争が終わり価値観が崩れゆく時代に、少年は父を越えようと立ち上がった。

海底農園

すると意外なことに反対はせず、静かにそうかと呟いた。然し、安心したのは束の間、父はこのように問いかけてきた。

「それで学部はどうするのだ」

学部に関しては深くは考えていなかった。というよりはどこの学部に行っても専攻はあれど、それ以外のことも学ぶ機会はあるわけだし、特段の拘りがなかった。

「複数受けようとは思うけど、第一希望は文学部かな。幅広い分野を学びたいけど専攻は哲学にしたいから」

そう答えると、父は文学部なんか認めない等と、久しぶりに声を荒げて激怒し出した。やはり人はそう容易く変わらないものなのだと呆れている武司に対し、追い打ちをかけるように文学部に行くくらいなら就職しろとまで吐き捨てた。

それならば、どこの学部ならよいのか。最大級の面倒な疑問だけを残して去った厄介な父を、再び頭の中でぶちのめした。

桜が春の訪れを告げながらも未だ肌寒い頃、武司は大学に進学した。試験の日が目前に迫った時期には、軽い痙攣(けいれん)を引き起こす程の腹痛に襲われたこともあった。

何度も便所に駆け込み、勉強どころではなかったのは初めてのことだったので、病院に駆け込んだわけだが、老いぼれの医者は特に異常はないと淡々と言ってきた。確かに記録の上では何事もなかったかもしれない。

然し、あたかもそれを絶対的なものと崇拝するかの如く、あまりの痛みに絶望する武司を心配する素振りを微塵も見せずに言い放つ様に、怒りで身体が熱くなるのを感じた。

そのようなことを思い出し、ラジオで春の訪れを報道する音声に首を傾げながら入学式の日を迎えた。勿論文学部を選択したが、それなりに名が知れている大学だったからか、いざ入学すると父は文句を言わなかった。

学業に精を入れるつもりであったが、予期せぬことがあった。高校生のときに羨望の眼差しを向けていた部活動に、剣術部というものが存在していたのだ。初めは物珍しいとしか感じておらず、入部する気はなかった。

入学に伴って一人暮らしを始め、父の干渉が弱まったことでこれまで目標もなくただひたすらにやらされた、つまらない剣術を辞める絶好の機会であった。それにも拘わらず、武司は一か月後に入部することにした。