翌朝目覚めてみると、雨は降っていなかった。雨を見越して少し遅めに起床したが、慌てて朝食を済ませ野付半島に向かう。
前日同様に国道244号から北海道道950号野付風蓮公園線へ入って直ぐ、予想外だったが、湿地にタンチョウを見つけた。路肩に車を止め、望遠レンズを構える。タンチョウは用心深く、直ぐに飛び立ってしまった……。
また車を走らせ、昨日と同じナラワラ駐車場に車を止めた。エゾシカの姿は見当たらない。天気は昨日より曇っている。
ミズナラが立ち枯れて白骨化したように見え、世紀末を彷彿させる退廃的なナラワラの風景は、晴れより曇りで薄暗い方が更に不気味さが増す。
より良い構図を求めて移動しながらシャッターを切っていると、ふと斜め後ろから視線を感じた。
振り返ってみると、立派な角を持ったエゾシカが10ⅿほど離れた森の際で私を見ている。一瞬びっくりしたが冷静になり、カメラバッグに手を突っ込んで、大急ぎで広角系のレンズから望遠系のレンズに付け替えた。
「頼むから逃げないでいてくれ……」と願いながら顔を上げると、彼は未だそこに留まっていてくれた。僕らはファインダー越しに数分間見つめ合っただろうか……。
痒かったのか、首を捻って大きな角で背中をかく仕草がコミカルで可愛かった。その後、彼は森へ帰るべく体の向きを変えたが、最後に此方を振り返ってくれた。
そして、ゆっくり森の中へ帰って行った。私はお尻の白い毛が愛らしいその後ろ姿に「ありがとう」と囁いていた。
再び車に乗り、北海道道950号野付風蓮公園線を戻っていたところ、途中、キタキツネが道路に出てきた。車を止めシャッターを切る。
昨日同様、私の目の前でお座りし、ポーズを決めてくれる。昨日と同じ方? お座りすると、何だか少し目つきの鋭い柴犬のようにも見える。
キタキツネは外見的にはどちらかというと犬っぽいが、目は金色で、その中の黒い瞳孔は日中は光が多いので細く縮まり、狡猾な印象を受ける。そういうところだけは猫っぽいかな。
ファインダーを覗いていると、突然、もう一匹キタキツネが飛び込んで来た。つがいだったのか……。
後から来た方は最初に現れた方の脇を通り「いつまでそんな奴の相手をしているの? 早く行くよ!」と言ったかどうかは分からないが、2匹は連れ立って海岸線を走って行った。
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