【前回の記事を読む】「年をとったら老人ホームに入れてあげる」冗談で言ったつもりが母は泣いて嫌がった。——50年後、母は歩くことが困難になり…

〈健常者に近かった頃の母〉

2 諦めない私

私はその頃、社会福祉士の資格を取り、デイサービスや特別養護老人ホーム(以下、特養)で相談員として勤務。その合間を縫って「何か良い方法があるのでは?」と考え、以前から知っていた人工関節置換術を行っている病院を調べてみました。

そこに行くには、今まで母が通院していた病院と比較すると若干遠方であり、車を使って30分以上かかります。しかし、そこが自宅から一番近い病院でした。

現在では有名人の方々が人工関節置換術を受けていて、ニュースや新聞で話題になります。ですから、知っている方も多いことでしょう。母が手術を受けた頃は、あまり聞いたことのない手術名称でした。

では私はなぜ知っていたのか? それは社会福祉士と関係があるのです。私は福祉系大学を出ていないので社会福祉士の試験自体を受ける受験資格がありません。そのため養成校に通い、多くのレポートを提出し、そこを卒業してやっと受験資格を得ることができるのです。もちろん、そのうえで試験に合格する必要があります。

養成校の最後の課程として、福祉施設での実習があります。実習先として特養、老健、地域包括支援センター、社会福祉協議会などがあります。社会福祉協議会、地域包括支援センターは人気があり過ぎて生徒の希望が殺到するので、本当にそこで実習できるかはわからない状況であり、決定が先延ばしになります。

実習先は早めに決め、早く終わったほうが得策と考えました。その後の試験対策に時間をかけられるからです。私は人気のない特養を選び、そこで実習経験を積みました。

その特養の利用者の中に人工関節置換術を受けた方がいたのです。実習先責任者の許可を取れば、個人情報のファイルを見ることができます。そうすることが、自分の勉強にもなります。

その方は毎日、歩行器を利用して廊下をゆっくりと歩く練習をしていました。歩行器を使わないと歩くことは無理であることがわかります。健康であったときの歩行に戻ったわけではないでしょうが、痛みがなく歩けるのは素晴らしいことです。また、毎日歩く練習をしているその利用者は立派であると感じました。