はじめに

すべての始まりは、変形性膝関節症末期で歩けなくなった母が人工関節置換術を受けたことでした。手術後の母が自宅で独居生活をすることが困難だったために私は実家に戻り、母との同居を決意したのです。

私がまだ高校生だった頃、冗談で「年をとったら老人ホームに入れてあげるからね」と言うと、母は真剣に「それだけはやめて」と言い、泣いてしまったことがありました。

思えば50年前のあのとき、私に老いた母の面倒をみることが運命づけられたのかもしれません。そのような昔の思い出もあり、私は一人の人間として、何としてでも母が強く希望していた在宅介護を叶えてあげたかったのです。

私には高齢者福祉施設での介護経験があるので、料理・洗濯・清掃等、すべてを福祉施設のサービスと同等以上でやっていける自信がありました。

それから約8年強、2020年2月に母が亡くなるまでの壮絶を極めた母の介護。

経験豊富なケアマネージャーが「親の介護をここまでやった人を今までに見たことがないです」と感想を漏らしていました。

とはいえ、私に全く悩みや悔いがなかったわけではありません。親を在宅で介護する厳しい現実と本音。私が体験した濃密な8年間を本書に詰め込みました。この一冊が、現在親の介護と向き合っている方はもちろん、これから介護を考えている方のお役にたてば幸いです。