当時、私は工場に勤務しており、同じ工場の敷地内に会議のあった事業部の生産プラントがありました。私は、野暮用があって、その生産プラントの事務所をたまたま訪ねました。

すると、驚くような光景を目にしたのです。その生産プラントを統括する課長が、自分の机の上で、なぜか、私のつくった手書きの提案書を、そっくりそのまま別の紙に一生懸命に手で書き写していたのです。

私は、その課長に聞きました。

「〇〇課長。一体何をされているのですか? △△役員には私のつくった提案書を見せればいいじゃないですか? もし、もっと綺麗に書けということなら、私が書きますよ」

すると、その課長は、バツの悪そうな顔をして、薄笑いを浮かべながら、こう言ったのです。

「エへへ。悪いな、永嶋。……実は、『この案を役員に提案するに当たっては、提案者の永嶋の名前と筆跡をすべて消せ』という指示が本社から来ているんだ。それで、俺が自分の筆跡ですべてを書き写しているところなんだ」

その瞬間、私はすべてを悟りました。その事業部は、その提案に関する私の関与の痕跡をすべて消し去って、その提案はエンジニアリング部門の永嶋が考えたものではなく、事業部が考えたことにして役員に説明するつもりだったのです。すなわち、私の提案を盗むつもりだったわけです。

やがて、本社の役員への報告会議が開かれましたが、私は呼ばれず、その工場の課長が、自分たちが考えた案だとして説明を行いました。

その結果、事業担当役員はその提案に強い賛同を示し、その事業部門では、その内容を将来ビジョンとして中期計画に盛り込むことを決定したのです。

そして、その課長ほか、事業部の関係者は、良い提案をしたということで、事業担当役員から大いに称賛されたのでした。

私は自分の考えを完全に事業部に盗まれてしまったのです。