「まるでホントに原始時代だぜ」

盛江はロビーエリアのソファに腰を下ろした。早坂は卓上のリモコンを手に取り、スマホのカメラ越しに操作した。壁掛けのテレビは消えたままだった。

「早坂、それで何か分かるのか」
「赤外線はスマホのカメラに映る。送信部分が赤く光るところを見ると、リモコンの乾電池は生きているらしい。だが、テレビはつかない。やはり館内の電気が途絶えているようだ」

すると、壁際にいた林が言った。

「二人とも、これには電気が来てるみたいだよ」

そばの電気スタンドのスイッチをカチカチやると、電球の光がついたり消えたりした。

「それ、電池式じゃねえの」
「違うよ、ほら」

林が指差した先に、プラグの挿されたコンセントがあった。

「場所によってはつながっているのかも」
「マジで? ってことは、原始時代じゃあないな」
「いや」

早坂が遮った。

「確かそのコンセントは表のソーラーパネルから電気を取っているって係員が言っていなかったか?」

林はコンセントに目をやった。

「ホントだ。シールが貼ってあって、『環境に配慮し、ソーラーエネルギーを採り入れています』って」
「なぁんだ」

盛江は頭を後ろにのけぞらせた。早坂は腕組みし、

「ソーラーとはいえ電気があるなら電化製品を使える。事務室にあったノートパソコン、プリンタなんかはいけるはずだ」
「そーかい。でも、インターネットができなければ、パソコンなんて何の意味もないな」
「そうでもないよ」

林が言った。

「あのノーパソには、電卓機能や百科事典の他、家庭医学のソフトも入ってる。病気や怪我の時に役立つよ」

ふと、廊下から泉がやってきた。

「勝手口に段ボール箱が四つあるわ」
「この施設は近所の宅配便の集荷所を兼ねているからね」

林は答えた。

「きっと誰も取りに来ねえよ。どうぜ原始時代なんだし」と盛江。早坂は迷っていたが、「我々の貴重な生活物資になるかもしれない。開けてみよう」