Chapter 2 生存への道
翌日のお昼過ぎ、林・泉・早坂・盛江の四人は観光案内所のドアの前に集まった。他のメンバーは昼食の片付けに掛かっている。
この日の正午は、大学生ら中心メンバーの間で設けた一つのタイムリミットだった。十二時を過ぎて観光案内所の係員が来ない場合、案内所に入って中の物を自由に使わせてもらう。
「使わせてもらう」という表現には、いつか必ず返す日が来るという願いが込められている。一体全体、世界はどうなってしまったのか。林らは延々と考えてみたが、さっぱり分からなかった。
大人は来ない。携帯電話の電波はつながらない。付近にあったはずの鉄柱も電線も無い。途切れた道路は何度見に行ってもやはり途切れている。
もしや集団的な幻覚かもしれないと、案内役と確認役とを入れ替えて道の終わりを交代で見に行った。しかし誰が見ても道は途切れている。
「これはホントに原始時代なのかもしれない」
メンバーは周りの風景を見ているうちに、早坂の言葉を確からしく感じ始めた。
「もしかしたら恐竜が森の陰から顔を出し、人間に喰らいつきやしないか」
真剣に不安を抱く者がいる。だが例の「人間グーグル」沼田稔が「大丈夫。イノシシがいたってことは、恐竜は絶滅したあとだよ」そう言って心配を拭い去ろうとした。しかし、誰一人としてその答えに満足する者はいなかった。
「じゃあ、中に入ろうか」
早坂は懐中電灯を手に、ガラスの無くなったドアの向こうへ足を踏み入れた。枠に残っていたガラスはあらかじめ工具箱にあったバールで叩き落としておいた。
早坂の後に続き、林・泉・盛江が中に入る。林が壁の電器のスイッチを押したが、カチッと音がしただけだった。
ブラインドを上げると、外光が入り、薄明るくなった。四人は手分けして施設内を見て回った。給湯室のガス湯沸かし器は、プラグは火花を散らすが、火の穂は起こらなかった。
蛇口は炊事場もシャワー室も枯れている。デスクトップパソコンや複合機、電子レンジ、冷蔵庫等々、あらゆる電気製品は動かない。どれも壊れているのではなく、電気が通っていないのだった。