【前回記事を読む】「これは大切な人の健康や幸運を祈るときに作るの」そう言って彼女が僕にくれたのは“ツル”だった。僕はなぜか急に恥ずかしくて…

~ 出会い Marlon & Lisa ~

「ママ、Lisaは絶対に天使だと僕は思うんだ。だってあんなにかわいいんだもん。何であんにかわいいのかな? それにね、見て、これはオリガミって言うんだ。Lisaが作ってくれたの。ママ、これなんだか分かる? これはツルなんだよ。ほら、今にも飛んでいきそうだ。

それからね、Lisaはこんなことを言ってたよ。このツルは大切な人の幸せを願うときに作るんだって。今度Lisaに頼んでママとパパの分も作ってもらうよ。だけどね僕……、今日はあまり良い子じゃなかった……。僕、Lisaにきちんと挨拶が出来なかったんだ。でもLisaはきっと作ってくれると思う。

それからね、ママ、僕は今日Lisaにきちんと挨拶が出来なかったから、神様に怒られてしまうか心配なんだ。だからママも一緒に神様にお祈りして。僕を許してくださいって」

少し不機嫌そうな顔をして何も答えず、呆れたように首を横に振っていた母。その日、僕は興奮してLisaの話ばかりしていたそうだ。

その日以来、僕は毎日のように祖父母の家に通った。Lisaに会える。それだけでどんなに楽しかったか。学校から帰るとLisaが帰るであろう時間を見計らって家を出発。

近道の近所の公園を抜けてPotterさん家のセントバーナード、Davyに話し掛けることも日課だ。

「Davy、聞いてくれるかい。今ね、おじいちゃんと、おばあちゃんの家にLisaが来てるんだ。とってもかわいい日本から来た女の子なんだよ。Davyも好きになってくれるといいな。今度僕がLisaを紹介するから、それまでどんな女の子か想像して楽しみに待っているんだよ」

Davyはいつも大人しく僕の話を聞いてくれる。何も答えてくれないが、気持ちは通じているんだ。Davyの頭を優しく撫でていると、Potterさん家のお母さん、Soniaさんがドアを開け、ニコニコしながら僕に近寄ってきた。

「こんにちはMarlon。最近は毎日のようにDavyと遊んでくれるのね。ありがとう。ところでちょうど今アップルパイが焼き上がったところなのよ。良かったら私の娘達と一緒に食べていかない? きっと喜ぶと思うわ」

Potterさんの子供、お姉さんは僕の5歳も年上。妹のBessyは僕と同じクラス。小さい僕を弟のように思って優しくしてくれる素敵な女の子だ。クラスの人気者で頭も良くて、Bessyは僕の憧れの人。本当ならBessyと一緒にアップルパイを食べたいけれど、今日は我慢。僕を待っているLisaのために。

「ありがとう。でも、僕はおじいちゃんとおばあちゃんの家に行かなくちゃいけないの」

「あらそうなの。残念ね。分かったわ。またDavyと遊んでね。良い一日を、Marlon」

Davyを見るとキョロキョロと周りを見回し、地面に伏せて僕をじっと見つめた。

Davy、男同士の約束だ。僕がBessyよりLisaのほうが好きだって誰にも言っちゃダメだぞ。

SoniaさんとDavyに挨拶をしてLisaの元へ急いで向かう。祖父母の家のドアをノックすると、祖母が暖かい部屋の中へ案内してくれた。焼き上がったばかりのマフィンの香りが漂う。奥のキッチンからLisaがティーセットを運んでテーブルの上に置き、皆に振舞ってくれた。

紅茶の淹れ方を祖母から今日教わったと楽しげに話すLisa。僕を横に座らせ、今日は僕のためにオリガミでキリンを作ってくれると言う。僕はLisaの横に座り、祖母の作ってくれたマフィンを食べながら午後のティータイムを楽しむ。