「大丈夫よ。父さん、いつも言っていたの。『俺が逝っても、心配ないよ。二人の息子が、二人の嫁が、居るからな』と。私の手を煩わす事なく、行っちゃった。父さんらしいわ。うううううう」と、泣いている。悲しくて、辛くて、声を出して泣いたのは初めてだった。
「母さん、僕達が居るから、大丈夫だよ。香子と相談したんだ。僕の家に来ないか」と、話したら、
「ありがとう。幸也も同じ事を言っていたけど、もうしばらく、父さんと過ごしたこの家に居たいの」
「分かった。母さんが望むまで、待っているよ」
初七日までは、交代で泊った。母さんは夜、一人で父さんの位牌と話している。時々、笑ったりしながら。辛いな。パートナーをなくすのって、どれだけ辛いだろうか。母さん、辛いね、寂しいね。
吉田には話をして、退職の形を取った。
「社長、僕はいらなくなったようだ。副社長がしっかりしている。頼もしい。これまで、本当にありがとうございました。会長、社長に出会えて、本当に幸せでした。吉田は僕の人生だった。愛していた。いや、今は香子が一番ですが。アハハハハ」
「香子さんには、吉田も勝てないんだな。アハハハハ」
圭が入ってきた。ブスっとしている。
「監査役、月一回は僕や社長と会食をする。いいね。条件だ」
何の条件だか知らないが、可愛い。
「おおー、いいね! 楽しみだ」
社長も笑っている。
「それと、来月の連休、二人で温泉予約しているからね。空けておいて。細かい事は、来週にでも」
来週も来いという事だな。