「罪滅ぼしってわけか」
「そうかもしれません」
「で、何で俺なんだ?」

博昭は聞いた。

「あなたもあの娘も檻に入っている」
「檻?」
「ええ。心の檻 です。檻とは人間が自分を守るために逃げ込む場所です。檻に入ると、言い訳をしたり、自分に嘘をついたり、自分を正当化したりして、他者を、世界を、あるいは自分を攻撃し、いまこうなっているのは、何かのせい、あるいは、誰かのせいだと思い込む。工藤さん。あなたは父親からの暴力により檻に入った。あなたは両親を、大人を憎むことでこの世界に立っている。雨水今日子は逆です。彼女は、自分を責めることでこの世界に立っている。憎しみの感情が外に向かっているか、自分に向かっているかの違いだけです」
「何が言いたい」

声を殺しながら博昭は言った。

「檻から出ないと、いつかあなたたち二人は破滅する。風間さんは本気で心配しています。いいですか、工藤さん。檻から脱出するための最も効果的な方法は……」

加瀬はそこで一旦言葉を止めた。そして博昭を見つめた。

「他者との触れ合いなんです」

博昭は加瀬の言葉の意味を考えた。

「それが今回の依頼の理由か?」
「そうです。あなたと雨水今日子は年も近い。何より、二人とも過去のトラウマを抱えています。風間さんは、あなたなら雨水今日子と話ができると思ったんです」
「ふざけんな」
「工藤さん。あなたと雨水今日子はコインの裏と表なんですよ」
「うるせえ!」

ガタン。突然、加瀬が椅子から立ち上がった。それから腰を落とし、そのまま床に正座をした。加瀬は姿勢を正し顔を上げた。

「工藤さん。雨水今日子をよろしくお願いします」

そう言うと、加瀬は深々と頭を下げ、額を大理石の床に擦りつけた。数十秒後、博昭は大きくため息をついた。そして言った。

「ツラ上げろ。コヨーテ」

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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