俳句・短歌 歌仙 2020.09.13 歌集「ひとり歌仙」より三首 ひとり歌仙 【第7回】 田中 靖三 “気がつけば超電導の虜なり” ――科学と日常を結びつける新しい文芸の形。 電気抵抗ゼロで世界に革新をもたらす夢の科学技術「超電導」。日々刻々と新しい技術に取って代わられる科学の世界において、人の寿命にも伍する100年以上の歴史を刻む「超電導」を、「5・7・5」の長句、「7・7」の短句を詠み重ねる歌仙方式で花鳥風月を織り交ぜ、詠いあげる。科学叡智の結晶「超電導」は、歌仙の響きと共にやさしく世界に溶けていく。 松尾芭蕉が作り上げたと言われるこの型式の、独吟による「ひとり歌仙」を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 己が身もがん細胞に狙われて 重粒子線のSC加速器 気がつけば超電導の虜なり あつき思ひの募りしままに にじり口いざなひ照らす秋の月 御手前醸す鈴虫の声
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『星空の下で』 【第16回】 つむぐ 亡き父は「市民全員の幸福」を切望していた。今の市政を見たらどう思うだろう…。 アパートの部屋に戻ると、さっとシャワーを浴びてベッドに向かった。三十代に入ってからは、疲れがなかなか抜けない。肩こりに眼精疲労。まとまった休みが取れないため、部屋にマッサージチェアまで導入したが、洗濯物置き場と化していた。私は横になると、泥のように眠った。今日は一日、休みをもらえたので、とことん眠るつもりだ。しかし、五時間ぐらいで、着信音に起こされた。携帯電話の画面を見ると、母の顔写真。「何、ど…