今日子は紗栄子の言葉を頭の中で反芻していた。『していいことと悪いことを自分で決められる人。それが倫理観を持つ人』私のしたことは悪いことなのか? 人を好きになってはいけないのか?
「あなた、まだわかってないようね」
紗栄子が言った。
「人を好きになることはいけないことなんですか?」
逆に今日子は尋ねた。
「好きになることは悪いことじゃないわよ。感情は誰にも止められない。でもね、好きになったからって妻子のある人とセックスする? 私の気持ちは考えないの? 娘の気持ちは? バレなければいいの? あのね、よーく考えてみなさいよ。『どんなことがあっても、一生、君と娘のことは守る』とあの男は誓ったのよ。その私と娘に嘘をつけるあいつが、あなたには嘘をつかないと思ってるの? そのくらいわからないの? 自分は特別だと思ってるの?」
紗栄子は前傾姿勢になった。そして今日子に顔を近づけた。
「あいつ君島良美とも寝てるわよ」
瞬間、頭が真っ白になった。紗栄子の目が冷たく光った。
次回更新は10月27日(月)、21時の予定です。
👉『永遠と刹那の交差点に、君はいた。[注目連載ピックアップ]』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】「私、初めてです。こんなに気持ちがいいって…」――彼の顔を見るのが恥ずかしい。顔が赤くなっているのが自分でも分かった
【注目記事】「奥さん、この二年あまりで三千万円近くになりますよ。こんなになるまで気がつかなかったんですか?」と警官に呆れられたが…