今日子は紗栄子の言葉を頭の中で反芻していた。『していいことと悪いことを自分で決められる人。それが倫理観を持つ人』私のしたことは悪いことなのか? 人を好きになってはいけないのか?

「あなた、まだわかってないようね」

紗栄子が言った。

「人を好きになることはいけないことなんですか?」

逆に今日子は尋ねた。

「好きになることは悪いことじゃないわよ。感情は誰にも止められない。でもね、好きになったからって妻子のある人とセックスする? 私の気持ちは考えないの? 娘の気持ちは? バレなければいいの? あのね、よーく考えてみなさいよ。『どんなことがあっても、一生、君と娘のことは守る』とあの男は誓ったのよ。その私と娘に嘘をつけるあいつが、あなたには嘘をつかないと思ってるの? そのくらいわからないの? 自分は特別だと思ってるの?」

紗栄子は前傾姿勢になった。そして今日子に顔を近づけた。

「あいつ君島良美とも寝てるわよ」

瞬間、頭が真っ白になった。紗栄子の目が冷たく光った。

次回更新は10月27日(月)、21時の予定です。

 

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