【前回の記事を読む】久しぶりに返ってきた夫。「お帰りなさい」私は胸で優しく抱きしめた。「ただいま」と言って彼は私のブラウスのボタンを外し…

第四章 不運が招いた縁

「女性は、押して、押して、時々、引くんだよ」

「僕は、押して、押して、押しています。だめですか?」

「バカだな。引いてごらん。安藤さん、くっついてくるから」

「由美…安藤さんですが、どこか奥様に似ています」

「そうかぁ。いいなぁ。余計に手を抜くなよ。逃がすな! 後悔するから」

「分かりました。頑張ってみます。ゴホン!」

咳ばらいをしている。

「仕事の話に戻ります。スケジュールですが……」と話している。

それからほぼ毎日講演会。意外と人前で話すのは、合っているかもしれない。疲れない。

今月末、大阪に出張だ。嫌だな。香子が居ない部屋で一人で寝るのは。香子にお願いして荷物に香子のパジャマを入れてもらった。我慢しよう。

午後、大阪支社に到着し、一時から支社幹部四十名、二時間、四時からお取引様幹部、四十人。

「いつも吉田ホールディングスとお取引、心より感謝申し上げます。本日は一時間少々ですが、僭越ながら、僕の講演をお聞きください。少々の時間ですが、質問にもお答えします。早速ですが、幹部としての姿勢からお話しします。私が感じる事を話します……」

時間が無く、質問が多く、次回も講演会をと会社ごとにお願いされた。

 

六時過ぎ、ホテルへ着いた。

「七時から、十二階のレストランに社長が予約を入れています」

「はぁ~ん、僕一人で? 君は」

「僕は、大丈夫です」

部屋に入る前まで、

「はぁ~、香子が居たら、美味しいけどなぁ~」

ブツブツ独り言。

「副社長、どうぞ」

高木が、部屋のドアを開けた。入ったら、香子が居た。

「おおー、香子! 会いたかった!」と香子に抱きついた。