「金清さん、あなた、経子さんを元から知っていたんじゃないですか? 答えてください」

「もういいじゃないか。俺が犯人ではないってことがはっきりしたんだし」

「金清さん!」

「分かった、分かった、言うよ。そうだ。俺は信永経子を知っている。何せ元妻なんだから」

海智と一夏は開いた口が塞がらなかった。

「元妻って、じゃあ、梨杏のお父さんってこと?」

一夏が目を丸くしながら訊ねた。

「そうだ。梨杏という名前は俺が考えたんだからな」

「何でもっと早く言ってくれなかったんですか」

「娘が生霊として化けて出ただとか、殺人事件の容疑者だとか、そういう話を聞いたら誰でも言い出しにくいだろう」

海智と一夏は目を合わせて肩をすくめた。

「梨杏がまだ四歳の時に俺達は離婚した。あの頃は仕事が忙しくてな。あまりいい夫でも父親でもなかった。家にも殆ど帰らなかったし、娘との思い出も殆ど無い。家に帰るといつも喧嘩ばかりでな。

別れた後、俺は神奈川県警で働いていた。時々、梨杏に会わせてくれるように頼んだんだが、いつも門前払いさ。それで二度と会えないものと諦めていた。それから随分経って梨杏が焼身自殺を図ったのを知った。ショックだったよ。

この病院に来て何度も面会を頼んだが、経子に拒否されてね。どうしようもなかったんだ。そのまま何年も経ってしまった。この間話した通り、県警を退官になって再就職の話もあったが、どうしても地元の水山に帰りたかったんだ。

持病の糖尿病はこの病院に通院することにしたんだが、外来に来る度にここに梨杏が入院しているんだと思うと苦しくなってね。その内にいいことを思いついたんだ。それまでは内服薬で何とかコントロールできていたんだがね、薬を全部止めて、暴飲暴食してみたんだ。

案の定、空腹時血糖値が360になってね、勿論薬はちゃんと飲んでいますって言ったよ。そしたら主治医がインスリン療法が必要ですって言って、慌てて入院させてくれたわけさ」

「それじゃ、最初に廊下で会ったのは・・・・・・」

「トイレに行こうとしたらアラームが鳴っているのを耳にして、まさか梨杏が急変したんじゃないかと心配になって出てきたのさ」

「毎晩、経子さんが帰るのを見計らって、梨杏に会いに行っていたんですね」

「初めて梨杏を見た時はその場に立っていられなかったよ。何度も済まないと泣いて謝った。だが、彼女は眠っているだけで、何も答えないんだ。俺にできることは毎晩彼女に会いに行って謝ることだけだ」

「そんな時にあの三人が搬送されてきた。あの三人が梨杏を虐めていたことは僕が教える前から知っていたんでしょう。どう思ったんですか?」

次回更新は10月19日(日)、18時の予定です。

 

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