「こっちは二人の子どものことで手いっぱい。自分のことは自分で考えてくれ」、そんな態度であった。
だから、恵子は飲みたいだけ飲む。一日中飲むようになった。何日もお風呂に入らないし着替えもしない。ビールもちっとも美味しくない。味などわからないのだ。だが、飲まずにはいられない。
うす汚れたかっこうでコンビニに行き、ビールを四、五本抱えて帰ってくる。布団の中に入って、それをちびちび飲む、時々、トイレで吐く。この連鎖をどうにか断ち切ってほしいと願うようになった。
浩も、もう、放ってはおけず、ネットで調べて千里浜の存在を知る。その話を聞いて、「そこへ連れていって」と恵子の方から頼んだ。「アル中というのは、れっきとした病気らしい。ちゃんと病院に行って、お酒を止めよう」、浩も真剣だった。そして千里浜病院を受診したのだった。
恵子の入院を一番喜んだのは、二人の息子だった。「お母さんはおかしい」「朝からお酒を飲んで寝ている」「お酒を飲む以外何もしない」、息子たちはそんな母親を、半ば心配し、半ば軽蔑していた。
「アル中という病気を治すために入院した」と聞いて、心底、嬉しいようすだったと浩から聞いた。とくに長男の翔平は、母親っ子で、お母さんが大好きだったのに、その人が壊れていくさまを見て、ひどく傷ついていた。思春期であったこともあり、悲しみは母親への反発に変わった。
酔っている恵子とは口も利かなかった。いの一番に子どものことを考えて行動してきた母親が、飲むことを最優先するようになったのだから、許せない気持ちでいっぱいだったのだ。恵子がみずから進んで入院したのは、この息子たちを裏切った自分をなんとかしなくては、という思いに突き動かされたからだ。
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