【前回の記事を読む】共和政ローマのエルトリア人が築いた町巡り:ラ・ストルタからフォルメッロへ。ヴェイオ公園と歴史が残る絶景ルート

2 古代エトルリア文明の地へ

ソルボのマドンナ

フォルメッロを後にし、急勾配を登る。この辺りはソルボ渓谷と呼ばれる場所で、放し飼いされた馬や牛がのんびりと歩いているのに遭遇する。

しばらく進むと道端に十字架が現れ、その先には、「ソルボのマドンナの聖堂」がある。

このソルボのマドンナには、古くからの言い伝えがある。

かつてこの辺りにいた手のない豚飼が、ある日雌豚に導かれて山に入ると、美しい聖母マドンナを描いたイコン(聖母像)が現れた。

豚飼は驚き恐れ一心に祈ると、やがて「ここに教会を建てなさい。周囲の人を信じさせるため、あなたの腕を袋に入れてみなさい。奇跡が現れます」という声を聞いた。

豚飼は急いでフォルメッロの街に行き、聖母の声に従って袋に腕を入れてからそっと引き抜いてみると、今までなかった手が現れるという奇跡が起きた。それで人々は、このお告げを信じたというのである。

その後人々はソルボ渓谷に入ってこのイコンを見つけたが、「この立派なイコンは、フォルメッロに持ち帰るべきではないか」と議論になったところ、

翌朝イコンは消えてしまった。慌てて探し出した後、人々は豚飼が聞いたお告げの通り、この山奥に聖堂を建てた、という伝説である。

確かにこの聖堂は渓谷の奥深くにあり、周囲は静寂に包まれている。聖堂が建てられたのは1427年。イコンの中の聖母の目は大きく見開いてこちらを見つめており、素朴で深い色合いが印象的である。

放し飼いにされている牛。マレンマ牛というエトルリア以来の古い品種である。非常に素朴で病気や過酷な気候に耐性がある。
ソルボのマドンナの聖堂入口付近にある十字架
ソルボのマドンナの聖堂。筆者が訪れた際、聖堂内では1人の信者が熱心に祈りを捧げていた。