【前回の記事を読む】ある日義母が投げたお皿が壁に当たって跳ね返り孫の額に! あわてて救急車を呼ぶと救急隊員へ咄嗟についた義母の一言が…
第十章 単身赴任
樹里が高校生になって間もなく、恭一は転勤で、家から高速道路を走って二時間のところにある県外の支社に勤めることになった。子どもの学校のこともあったので単身で行くことにした。結里亜は地区の数多い行事や自治会への参加、また、義父母の世話を一人でやらなければならないことへの不安はあったが、まあなんとかなるだろうと楽観的に考えていた。
恭一は一カ月に一度か二度帰ってくるのだが連絡をせずに急にくる。それは、朝の四時だろうが夜中の十二時や二時であろうが関係ない。
「急に玄関のドアが開いたり、物音がすると怖いので帰る日にちを連絡してほしい」
と恭一に伝えるのだが、
「自分の家だからいつ帰ろうが関係ない」
と恭一は言う。後にこれがトラウマになり、ちょっとした物音でも過敏に反応し恐怖にかられることもある。
池上家は、親戚四軒で同じ敷地にお墓がある。その敷地面積も広く、また大きな木も植えられているので、枯れ葉の片付けもあり、八月の一週目に一軒で二人ずつ出てお墓掃除をするのが恒例になっている。恭一に連絡をすると、
「お盆に帰るからそんなに続けて帰れない」
と返事がくる。そんな時は、結里亜は一人で行き親戚の人たちとお墓掃除をする。また、地区で一斉にする草刈りの日にちを連絡すると
「こっちにいるから無理だな。まあ、結里が交通費として一万円出してくれたら行くよ」
と恭一が軽く言う。
「もういい、自分で行くから」
と結里亜は言うしかないのだ。
「県外で働いているのだから仕方ないのか」
と思って結里亜は自分を納得させた。
そして、参観日の前、結里亜の新規開拓したお店に行った。テーブルも広く、木の温もりが感じられる居心地の良いところだった。
「ねえ、心配してもらったけど、結局家に帰ることにしたの」
と奈緒美。
「えっ? 大丈夫?」
三人は他人事ではないと思い心配そうに奈緒美の顔を覗き込んだ。その一部始終はこんな感じだ。アパートに住み始めて三か月が過ぎた。奈緒美が家を出たことを知り、横浜から姉の明美とその息子の稔がアパートに遊びに来ていた。今までの経緯を聞いていた明美は、
「奈緒美ちゃん、私にできることがあればやるから当分の間はここにいた方がいいよ」
と言う。