もちろん人に関することですから、成育歴の中で症状の増悪などの影響もありますが、基本的に親などによって発達が妨げられたから発症したということではありません。本来的な発達心理学の意図ではなくとも発達課題は達成すべきものだという観念、あるいはこう育てたらこうなるというような因果論的な考え方は、これまでも発達障害の子どもを持つお母さんたちがさらされてきた、育て方が悪かったからではないかという誤謬につながります。
そうではないのです。現在、発達障害は脳神経の問題として社会性やコミュニケーションや認知など、ある種の発達が障害される、先天的な障害であるとの認識に至っています。
だからといって、まったく変化しないとか成長しないと言っているわけではありません。発達課題の達成というような成長発達でなくとも、日々変化、成長します。それはすべての人においても同様です。
それぞれの発達段階の発達課題を完璧に達成してきたという人はおらず、この時期にこの発達課題を達成するのが当然だということでもありません。ひとつの指標です。不安をあおる材料となるのであれば、それはつらいことです。
そしてまた、障害だから状態は変わらないというもの誤解です。身体障害においても、視覚障害のある人は白杖を使い戸外も歩けますし、点字で小説も読めます。聴覚障害のある人は口唇を読んで何を言っているのかわかりますし、手話でたくさんおしゃべりもします。
障害は多義的な概念です。障害されている部位があるという事実と、それがどのように機能しているのかという状態と、生活するうえでどのような不都合があるのかという状況があります。
それはまた、ずっと同じ状態ではありません。加齢によっても、環境の変化、治療や努力によっても変わります。