第1章 「発達」と「障害」
発達障害と発達心理学
現在、発達心理学というと乳幼児期から思春期くらいの話題が多いです。青年期以降になるとどうもはっきりと言えなくなります。青年期の男女の社会的役割といっても、現在、ジェンダーは評判が悪いですから、そのままでは受け入れられないでしょう。
また、およそ社会に出てからアラフォーくらいをさす壮年期、私が学生の頃は「性的にも社会的にも成熟し、伴侶を見つけ、出生家族から形成家族に移行する」と習いましたが、現代では未婚率も高いし価値も一様ではないし、困ります。もちろん人は生涯を通じて変化し、その年代の心の変化や特徴的な心理もあるでしょう。しかし発達課題として提示されると、その時代のライフコースを下敷きに考えられていることがわかります。発達心理学は魅力があり、多くの人が興味のある分野のようです。
しかし発達障害を考えるに及んで、誤解を含む可能性は否めません。先にあげたように、乳幼児期には母親や他人の識別、言語の獲得、児童期には集団性、社会性の獲得などが発達課題としてあげられますが、発達障害のある子はなかなか達成できません。
それに対して、それぞれの発達段階の発達課題の達成が障害されたから発達障害になったのだという考えに結びついてしまうかもしれません。発達障害の発達は、誕生以降加齢によって前進する発達というよりも、生来の脳神経的特性として、ある種の発達が障害されている状態に関することです。
発達心理学的に、その発達時期における家族や学校の対応がまずかったので、大人になってからは職場や家庭の対応がまずかったので、発達が障害されたということではありません。現在は多くの研究によって、生来の脳神経的な問題であることが認識されています。