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サトルは妻の琴音に寺での出来事を話した。

「オレは人殺しなんだってさ。それでも大丈夫?」

「実はあなたに話していなかったことがあるの」

琴音が言った。

「何?」

「実は婚約したときに、あなたのご両親から話があるって言われて、あなたのいないときに呼ばれたことがあったの」サトルには初耳の話だった。

「そのとき話してくれたの、あなたが昔、お兄さんを誤って殺してしまったことを。今、あなたが話したとおり。それでも息子と結婚してくれるか、あなたのお母さんは聞いたわ。私はそれでも結婚しますって言ったわ。そうしたらお父さんもお母さんも泣いて喜んでくれた」

「そうだったんだ。それならなんでオレには話してくれなかったんだろう。冷たい親だな」

サトルは苦笑いしながら言った。

「あなたには思い出してほしくなかったのよ。一生心に傷を負うことになるから」

「そんなことも知らずにオレは荒れてたわけか」

「親の心子知らずって言うから」二人は笑い合った。

「あ、今赤ちゃんがお腹を蹴ったわ」

「本当だ。男の子だから元気がいいな」サトルが琴音のお腹に手を当てた。

「赤ちゃんの名前は何にしようか?」サトルが聞いた。

「私はもう決めているの」

「なんていう名前?」

「ワタル。森本亘」

本連載は、今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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