ママのスマホを奪い取りスワイプさせていくと、尚子といっしょに知らない男が写った画像があった。季節感から見て少し前に撮られた写真のようだ。すると尚子はかなり前からそいつと俺の二股をかけていたのか―。

この衝撃的な出来事に加え、自分の判断ミスを部下に押し付ける卑劣な上司と揉めて退社にまで追い込まれていた俺はすっかり人間不信に陥り部屋に引きこもって、ソーシャルゲーム三昧になってしまった。

特に『魔法世界☆ルーライド』というロールプレイングゲームは面白く、昼夜逆転の生活を送っているうち、気が付けば100万円近く課金していた。

そんな俺に対して突然、ゲームからのお知らせが届いた。そこには『近日終了』という無慈悲な文字が書かれていた。やっと見つけた安らぎの地が、足元から崩されたのだ。

その虚しさに俺は思わず天を仰ぎ、平気でこういうひどいことをするゲーム会社を罵(ののし)ったが、元々誰かによって作られたバーチャルの世界など、崩壊する時はこんなものだと、少し人生を悟った気がして心を落ち着けた。

とはいえ、虚しさはぬぐえなかった。

中円寺駅前のファストフード店で遅過ぎる夕食を取った後、既にほとんどの店がシャッターを下ろしている商店街をフラフラと歩いていると、暇そうなお婆さんの易者と目が合った。

誘われた気がした俺は、燈行(あんどん)が置かれたテーブルの前の椅子に座った。

「ン~~~、人生に悩んでますね」

易者は数十本の筮竹(ぜいちく)をジャラリと鳴らし、誰にでも言うセリフを吐いた。

「そう、まあそうやねん。俺はこれから何をしたらいいでしょうかね?」