【前回の記事を読む】【当選確率0%!?】ユーチューバーの高層マンションで繰り広げられるクセ者だらけの政治談義に、平凡な俺が参加することに…
第1章 俺、都知事選に出ちゃいました。佐内雅彦の挑戦!
当選確率0パーセント 「失うものは何もない」
「理想ばっかり追っているあなたと、現実主義の私。きっと私たち合わないね。別れるしかないのかも……」
学生時代から付き合ってきた尚子に突然そんなことを言われた時、俺はいつものようにただ彼女の機嫌が悪いだけだと思って、「そうやな。そうする?」とパソコンゲームから目を離さないまま無造作に答えた。すると尚子は急にワッと泣き出し、部屋を出ていこうとした。
驚いた俺は「ちょ、ちょっと待って」と呼び止め、手をつかもうとしたが電気コードに蹴躓(けつまず)いて派手に転んだ。
「佐内君の鈍感さと不器用さが大嫌い!」廊下の踊り場から彼女の声がした。
いつもと同じようなやり取りなのに今日に限って、なんでそれほど尚子の機嫌を損ねたのか正直分らなかったが、とりあえず謝ろうと思い直し、彼女のスマホにメールをしようとしたが用意周到にも既に着信拒否になっていた。
少し間を置いた方がいいかと考えた俺は、それからしばらく連絡しなかった。すると、1週間ほど経ったある日、尚子とよく行っていたスナックのママさんから「おめでとう。あんた、尚ちゃんと結婚するだって?」と、わけの分からない祝福をされたのだ。
「エッ、俺は知らんけど」と驚くと、ママはちょっと狼狽した様子でスマホを見直した。
「あ、ゴメン。これ他の人とだったわ」と複雑な笑顔をした。
「誰やねん?」