たまたま最後の転院先にも友人がいたり、看護実習先でもあった病院でもあった。長男と面会者記名をしていると、声をかけてくださった看護師長、リハビリ科の理学療法士が、私を見るなり実習のときのまだ旧姓の時期の私を覚えていてくれていた。
お褒めの言葉だった。実習生時代のことを10数年経過して褒められる。その場にいた長男が、驚いていた。
看護師を辞めてしまった母に対して無念がる長男の表情が緩んだのを覚えている。それは頑張って良かった、報われたと一瞬だけでも思えた。
長男がどう感じたかわからないが、私が看護師だから誇らしく見えていたなら、第三者の発言はマイナスではなさそうな表情に思えて、長男が現実を少しずつ受け入れてくれているようにも感じた。
1年の長い入院生活。離れていて寂しかったなか、彼らも私も日常に目を向けるようになり、彼が帰宅するまで指折り数えて、2020年7月。ありがたいことに、夫が試験外泊で一時帰宅したのは私たちの10年目の結婚記念日。
有意義だった。言葉で表すと『思いやりの日』。
長男は車椅子を率先して押し、車椅子の隣を次男が陣取り、三男は夫の膝上におさまる。その数週間後に晴れて退院し、現在も五人で出かけると車椅子周囲のポジションは変わらない。ありがたい時間の流れだと捉えている。

挿絵(お父さんと三男窓越しでタッチ)