「達也が忙しくて、それどころじゃないみたいなの」

「もう、期待しているんだから、とにかく一回だけでも設定してよ」

「でも、合コンに来る男なんて遊び人ばかりかもよ」

「それを言うなら出会い系アプリだって怪しいことになるけど、今はアプリで相手を見つけて結婚する人も多いみたいだよ」

「沙也加は出会い系アプリをやってるの?」

「まだ。なんか恐くて。美春の旦那みたいに良い人はなかなかいないよ」「そりゃそうだよ。毎朝、『愛してるよ』ってキスしてくれるし、仕事で夜遅くまでかかっても、晩ご飯の片づけは全部やってくれるの。あんなに素敵な人はいないわ」

「ちくしょう、うらやましい」

「私、もう達也なしじゃ生きていけないよ。子供も早く作ろうって話してるんだ」

「わかった、わかった。もう充分だよ。とにかく合コンの設定よろしくね」

「わかった。もう一度言ってみる」

「少しくらいは強引に言ってよ」

結婚後半年が経ち、美春は妊娠した。妊娠三か月だった。

達也は大喜びして、美春のお腹に手を当てた。

「まだ三か月だよ。お腹触ってもわからないし、動くのだってだいぶ先のことよ」

「そうか、でも体だけは大事にしてくれよ。俺と美春との愛の結晶なんだから」

それからというもの、達也は忙しい仕事の合間にも家事を手伝ってくれた。産婦人科へは夫婦で通い、そのたびに達也はお腹の中の赤ちゃんが大きくなったと喜んだ。

早く達也の子供が欲しい。達也と私の子供の顔が見たい。美春はまだ大きくなってもいないお腹を撫でながら、

「早く生まれておいで」

と毎日のように声をかけた。

“世の中に自分以上に幸せな人はいない。赤ちゃんが生まれたあと、三人での暮らしはもっと素敵な日々になるだろう”

しかしあの日曜日、美春の幸せは木っ端微塵に砕け散った。あの事故のせいで。

忘れもしない二年前の九月八日、日曜日の自動車事故。

その日、久しぶりの休日だった達也は、美春の体を気遣って、コンビニへ昼食を買いに行き、その途中で事故に巻き込まれた。

泥酔した五十八歳の無職の男性の車が、歩道に突っ込んで、十四名が死傷した事故。死者三名のうちの一名が美春の夫、早川達也だった。二人が結婚してからたった七か月後の出来事だった。

 

次回更新は8月25日(月)、18時の予定です。

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