【前回記事を読む】「今のこのままではいけない」――情けなく終わってしまったメドレーリレー、チームで気持ちを一つに

〈序章 202×年3月某日(土曜)昼過ぎ〉

〈高校2年生〉

{ある日の部活(白川朗子)}

深田君が「おー、今日はとってもいい天気! 爽やかな風が最高」と、有言実行でスポーツ刈りにした頭を、時折撫でながら、キャプテンらしく先頭に立って、全員を引っ張って走り出した。

車の通行がほとんどない住宅街の一本道を、ずーっと行くので、ちょっぴり遠足気分になりながら折り返し点の井の頭公園に着いた。

「西尾君、2人でボートに乗ろうって言ってたけど……」と笑いながら確認したら、西尾君がハンフリー・ボガードを真似た渋い表情を作って首を振り、「そんな昔のことは覚えていない」と言った。

しょうがないので少しその会話に乗って、「また今度でいいのね」と言ったら、「そんな先のことは分からない。じゃあな」だって。

深田君はその会話を笑いながらスルーし、みんなでUターンして帰路に就いた。

私は、この帰り道を走るのが好き。

途中で通称「マーガレット」と言われる学園脇を通る。その付近で、大好きな荒井由実の『ひこうき雲』を歌うことにしている。曲のテンポは走りながらには若干スローだけど、自分の歌声が、大空に向かって360度にどんどん広がっていくのが気持ちいい。

以前に歌い始めた頃は、それほど曲が知られてなくて、やや物悲しい歌詞だからか、みんなは聴き入るだけだったり、布施明の『これが青春だ』を歌い出す人もいたりしたけど、段々と皆にも馴染んだみたいで、部の中で人気赤丸急上昇中。私の歌い出しを待ってくれてる感じで、みんなが合わせて歌いながら走るようになり、陸トレの一部みたいになってるのが嬉しい。