兄貴が代表を務める株式会社Rは、収益のほぼ半分を、上杉病院グループからの発注で得ていた。

中小企業において、大口顧客からの業務を切られるということは、たちまち倒産の危機に直面するということを意味する。

兄貴は、職員の雇用を守り、給与を遅延無く支払うために、自らの報酬を月額6万円とすることを決断した。(ゼロにするつもりでいたが、顧問税理士から、それでは社会保険が喪失し、年金も切り替えなければならないので大変だ、と忠告されたらしい)

この年のゴールデンウィークは、人によっては、翌27日から5月6日までの10連休となる曜日の配置となっていた。

兄貴一家にも、家族で旅行の計画があった。

あえてそうした連休前日の夕刻に、日時を合わせて各施設から一斉に、内容証明郵便を送り付ける必要が、どこにあったのだろうか。

しかも、それまでは、会社関連の通知は、全て会社宛に送られており、自宅に届いたことはない。

一体、誰の発案なのだろうか。

さらに、そのうちの1通には、会社宛契約切りの書面と一緒に、

[伏見総合病院(遠方のグループ病院)へ、翌勤務日から出勤し、午前9時から午後5時 30分までデスクに就いて業務すること]との旨の[業務命令書]のみならず、

[貴殿は当病院グループに貢献していないため、業務命令に従えないのであれば、退職を勧める]

との文書、ならびに、

[退職届用紙]

[上杉祥士理事長宛の宛名を記載し、切手まで貼った返信用封筒]が、同封されていた。

郵便を受け取ったのは、兄嫁で、その心中は、察するに余りある。

連絡を受けた兄貴は、すぐに、病院グループ本部の中井総務部長に、電話で抗議をした。

「私が病院に貢献していないと書かれているようですが、毎月100ページ以上の報告書
を提出しているのを、中井総務部長はご存知ですよね。私が毎月提出しているレポートの送信先リストには、中井総務部長のお名前もありますよね」