【前回の記事を読む】「それに警察は彼女を疑っていない。疑われているのは君だよ。」刑事は父が亡くなった"事件"を蒸し返し...
第三章
一年一組
僕の事情聴取が終わって教室に戻り待機していた。次々生徒が呼び出されていくなか僕はじっとしていた。一人一人の取り調べに掛る時間が僕のよりはるかに短い。
僕が長々と話したせいでもあるけど、他の生徒には簡単に先生の人となりなどを聞いているのだろう。先生の笑みが浮かぶ。
樹先生がなぜ火災に巻き込まれたのか分からない。事故ならまだ納得できるが、でも僕の名前を呼んでいたというのは、何の理由があるのだろう。まさか、母の自殺と今回の事件に繋がりがあるのだろうか。
考えがまとまらない。秋吉が振り返っている。僕が笑みを返すと、秋吉の眉間にしわが寄った。とにかく今は何も考えられない。何も分からない僕は目をつむることを選んだ。
数名の事情聴取を終えて、部屋を出ていく少年の背中に乗っているものを思い出し、藤堂は静かに息をついた。高校生が背負うもんじゃない。
藤堂の高校生の頃と比べても、月島の方が格段にしっかりしている。本人は全く認識していない焦燥が透けて見えて痛々しい。
藤堂は頬杖をついた。
野口樹が名前を呼んでいた月島翼が重要参考人であることは間違いない。癖のように口に運んでいるグミをまた一つ口に放り込んで噛み潰す。奥歯と奥歯の隙間でぶつぶつと潰れていく感覚がたまらない。つぶれた破片が舌の上で溶けて柑橘の匂いが鼻腔に広がっていく。昔からこの感覚が癖だ。
「さっきの彼、先生に名前を呼ばれていた月島翼を見ました」
行沢が部屋に入ってきた。
「ああ。そうか」
藤堂は月島が座っていた場所を焦点をただ眺める。月島の瞳が藤堂を責め立てている。月島を見ていると胸の奥にしまうしかなかった後悔や罪悪感があぶりだされる。藤堂は頭 を抱える。
「普通の高校生って感じでしたね」
「まあな」