「全然怖くないよ! だって人間いつかはみんな死ぬんだよ? このまま何も喋らないほうが勿体無いじゃん!」

裕翔はこんなに命知らずな人に出会ったのは初めてだった。

あと一声、声を発したら死ぬかもしれないというのに、彼女は何も恐れていないように思えた。

 

それから彼女は週三くらいのペースで屋上にやってくるようになった。

「また寝てるのー?」

屋上に来ては、裕翔に話しかけてくる。

「現代文の授業難しいよねー」

『むずい』

「部活とか入ってないの?」

『帰宅部。北山さんは?』

「私は書道部だよ。でも活動少ないから暇なんだよねー」

彼女はずっと声を出して話すのに対し、裕翔は相変わらず音声アプリに文字を入力して音を出していた。

二人は声と音声アプリとで会話をしていた。

  

彼女が話しかけてくるのは、教室では誰にも声を出して話せないからだろう。

そもそも声を出して話そうとする人はどこにもいないのだが、彼女は全く恐れることなく裕翔に話しかけていた。

最初は心配になって無視を決め込もうとしたが、逆にしつこく話しかけられたため、諦めて会話に付き合うことにした。

次回更新は8月22日(金)、11時の予定です。

 

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