この日の放課後も、早く家に帰っても暇だったので、学校の屋上で手を広げて寝っ転がって、ぼーっと空を眺めていた。
「なにしてるのー?」
いきなり声をかけられた裕翔は、
「え?!」
と、思わず声を出して飛び上がった。振り返ると、そこに同じクラスの女子が立っていた。
名前は北山(きたやま)桜空(さくら)さん。黒髪ロングヘアで可愛らしい容姿をしている。教室では明るい雰囲気で音声アプリを使いこなしていて、友だちも多くてクラスで人気者の女子だ。
そんな人気者に初めて声をかけられたことに驚いたが、それよりも明らかに生の声が聞こえたことに心底驚いた。
裕翔は慌ててスマートフォンを取り出し、音声アプリを開いて文字を入力した。
『どうしたの?』
「いやぁ、こんなところで何してるのかなーって思ってね! 岡本くん教室でもいつもつまんなそーにしてるからさ」
彼女は裕翔の目を見て、今度は間違いなく口を開いて言葉を発していた。
『ぼーっとしてただけだけど』
続けて文字を入力して聞いた。
『なんで声出してるの?』
「なんでって、別に喋(しゃべ)っちゃいけないなんて法律ないでしょ」
彼女は笑いながら話した。
『でも、教室では声出してないよね?』
「出さないよ。だってみんな声出さないのに一人だけ喋ってたら私だけ浮いちゃうじゃん」
彼女がこんなに喋る人だとは思わなかった。
裕翔は単刀直入に聞いた。
『死ぬのは怖くないの?』
彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、笑顔になって答えた。