「他に、何か苦しい事はありますか?」

「入江さんです。去年の十月に出会ってから、誘って下さるままにお付き合いをしていた人で、福井まで来て下さって、何もかも助けて頂いたんです。この間、プロポーズされて……でも、私、彼を愛していないって気付いたんです。私、入江さんと付き合うまで、男性とお付き合いした事がなくて、自分の気持ちもよくわからないままデートしてたんです。本当にお世話になって、申し訳なくて、まだお返事していないんです。それが苦しいです」

「その入江さんですが、貴女は何故、彼を愛していないと気付いたんですか?」

「入江さんは、とても紳士で、私の手にもまだ触れていません。私、それで、安心して、四ヶ月もお付き合いをしてしまって……。でも、思うんです。愛するって、その人のために死ねるんじゃないと、本当の愛じゃないって。そう思ったら、私……彼じゃないって気付いたんです」

柚木は、精神的に幼いけれど、それだけに純粋な優子を可憐だと思った。

「貴女の心が決まっているなら、早く彼に言った方がいいですね。待たせると、こじれますから」
「えぇ。そうします」

優子は力なくうなだれた。

「他に、困っている症状とかは、ありませんか?」
「眠れません。眠っても浅くて」
「睡眠薬も出しておきます」
「それに……夢です。父が亡くなってから、よく夢でうなされます」

柚木は、思わず身をのりだして、優子を見た。

「それは、とても重要な事ですよ。人は普段、顕在意識で過ごしていますが、これを氷山にたとえると、海上に見えている一角だけです。人には無意識の潜在意識があって、氷山の海の中がそれにあたります。顕在意識よりも、ずっと大きくて、本人も気付かない様々な思いがそこに潜んでいます。

夢には、その潜在意識からのメッセージが表出する事があるんです。覚えている夢があれば、話して下さい」